こんにちは。鈴木貴之です。

先日、ある和食のお店の事例を、勉強会で聞く機会がありました。
経験の長い職人さんがやっているお店で、お料理の評判はとてもよいそうです。

けれど、お店の外からは、その良さがあまり伝わっていない。
どう支援したらよいか、みんなで考えようという場でした。

その中に、こんなやり取りがありました。

実際にお店に行った方が「おすすめは何ですか」と聞くと、店主さんは「全部おすすめです」と答えたそうです。

私は、この一言がずっと頭に残りました。

みんなの提案は、ほとんど「あとのほう」だった

勉強会では、参加者が一人ずつ、支援の案を発表しました。

  • 原価率が高いので、まず原価を見直す
  • ターゲットとメッセージを決める
  • 看板メニューを作る

どれも、もっともな提案でした。
そして、私が気づいたのは、ほとんどの案が、「何をするか」の話だということです。

その中で、総評をされた方だけが、こう言いました。

「まず、事業者さんがどうなりたいのかに合意するところから始めたい。どこから入っても、そこさえ合っていれば間違えない」

この言葉を聞いて、私が考えていたことが、はっきりしました。

私が考えていた「支援」

私は複数の事業者さんを支援してきて、そして他の方の支援に対しての考え方を聞いたりSNSで見たりしていて最近強く考えていることがあります。

それは、支援には「上流工程」と「下流工程」があるということ。

上流工程とは、つまり戦略です。
例えば、こんなことを考えること。

誰に、どんな価値を、どうやって届けるか。

そしてその後に下流工程、つまり戦術が出てくる。

決めた「誰」をターゲットに落とし込み、その人たちにとって価値のある強みを伝えて、それをホームページやGoogleマップ、SNSで知らせる。

これは、間違っていないと思います。

でも、上流工程と今まで読んでいたものの前に、もう一つ問いがあるのではないか、と思ったのです。

「このお店を、10年後、20年後、どうしたいですか」

「誰に来てほしいですか」は、答えにくい

私が思うに「誰に来てほしいですか」と聞かれて、すっと答えられる店主さんは、あまり多くないと思います。

特に職人さん的な方の場合はその傾向が高い。

それは、考えが足りないからではありません。
「誰に」は、「どうなりたいか」から決まるものだからです。

たくさんの人で賑わう店にしたいのか。
常連さんと長く続けていける店にしたいのか。
自分の暮らしを大事にしながら、丁寧な仕事を続けたいのか。

どれが正しい、ということはありません。

ただ、これが決まると、「誰に来てほしいか」が見えてきて、「どんな価値を出すか」「どこで知ってもらうか」が決まってきます。

逆に、ここが空いたままだと、ターゲットを決めても、しばらくして「やっぱり違うかも」となりやすい。物差しがないからです。

「全部おすすめです」の、もう一つの読み方

最初の言葉に戻ります。

「全部おすすめです」は、お客さんのことが分かっていないから出る言葉、と言われます。勉強会でも、そういう見方がありました。それもあると思います。

でも、私はもう一つの読み方もあると思いました。

何を一番にするかは、何を目指すかで決まります。
目指す先がまだ言葉になっていなければ、一番を選べません。

全部おすすめなのは、本当に全部に手をかけているからで、そのとき、何かを選ぶのは、何かを切り捨てるように感じるのかもしれません。

原価率の話も、同じところに戻る

この事例では、原価率が高いことも、話題になりました。

「50%は高すぎるので、下げましょう」という提案は、数字としては正しいのかもしれません。

ただ、職人気質の店主さんにとっては、納得しにくいと思います。

その原価は、手間をかけたいところに使われているはずです。
だしにこだわる、仕入れにこだわる、盛り付けにこだわる。

だから、先に聞きたいのは、数字ではなく、「なぜそこまで手をかけるのですか」「減らしてもよいところと、減らしたくないところは、どこですか」ということです。

それを聞いたうえで、減らしたくないところを守りながら数字を見る。これなら、「やらされる改善」ではなく、「自分で決めた改善」になります。

看板の言葉を、否定しない

もう一つ、気になったことがあります。
お店が使っていた、看板の言葉のことです。

勉強会では、「その言葉だけでは、何も伝わっていないのでは」という意見も出ました。
たしかに、よくある表現は、お客さんの記憶に残りにくいことがあります。

ただ、その言葉は、店主さんが自分で選んだ言葉です。

お話をたくさん聞いて、手間のこと、経験のこと、お客さんの声を並べたあとで、こう聞いてみます。

「今まで教えていただいたことは、この言葉で言い表せていますか」

そこで、店主さんが自分の言葉で話し始めたら、それが本当の強みの入り口だと思います。
見つけるのは店主さんです。
私が先に答えを言ってはいけないと考えています。

暮らしの話から聞く

では、どうやって、「どうなりたいか」を聞くのか。

「10年後はどうなっていたいですか」とだけ聞くと、答えにくいはずです。
私は、暮らしの話から入るのがよいと思っています。

今の1日の流れ。
休みの日のこと。
このお店を始めた理由。
いちばん嬉しかったお客さんの話。

そこから見えてくるのは、お店のためだけでなく、店主さんの暮らし方や、大事にしている価値観です。

お店は、暮らしの一部だからです。

この聞き方には、もう一つ良いことがあります。

お店の数字ではなく、店主さん自身に関心を持っていることが伝わるので、信頼関係が育ちやすいのです。

あとで原価や価格の話をするときにも、「分かったうえで言っている」と受け取ってもらいやすくなります。

なぜ、提案は「あと」のほうに偏るのか

勉強会のあとで、自分なりに考えてみました。

提案が、「何をするか」に偏りやすいのは、次のような理由があるからだと思います。

  • 数字や口コミ、SNSは、見れば仮説が立てられる。でも、店主さんの思いは、聞かないと分からない。
  • 「10年後は?」と聞くのは、答えが出ないと気まずい。
  • 「困りごと」として最初に出てくるのは、閑散期の売上のような、目に見える症状だから。
  • 支援者それぞれに、得意な道具(原価、SNS、デザインなど)があるから。

どれも自然なことで、誰かが悪いわけではありません。
ただ、これに気づいていると、「今、自分は下流の話をしていないか」と立ち止まれます。

私にできること

私にできることは、こう整理できました。

社長の中にあるけれど、まだ言葉になっていないものを、対話の中で一緒に見つける。

それを、お客さんから見て「選びたい理由」に変えて、ホームページやGoogleマップ、検索に載せる。そして、社長が目指す未来に、できるだけ早く近づける。

見つけるのは、社長です。
私は、見つけやすくなる問いを出す役です。

自分で見つけたものは、自分のものになります。
発信するときも、続けるときも、他人から借りた言葉より、ずっと強くなると思っています。

最後に

もし、「おすすめは?」と聞かれて困ったことがある方は、こう自分に聞いてみてください。

「10年後、このお店で、どんな毎日を過ごしていたいか」

答えは、すぐに出なくて大丈夫です。出ないこと自体が、大事な気づきの入り口だと思います。


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